マツノヤ人文学研究所

独断と臆見による人文学研究と時評

文化圏研究叙説

歴史研究は時代の鏡である。研究者は周囲の環境から何かしら影響を受け、みずからの研究が歴史という大河に「一石を投じる」「波紋を広げる」ことを願う――世の中の関心に少しでも寄与できるように、みずからの得た知をフィードバックしようとする。 しかしな…

辰砂:文化と知識のネットワーク

空海と水銀、鍍金技術の関係 丹生明神……水銀 虚空蔵加持……黒雲母、ウナギのタブーと「ヲ」を持つ蛇のアナロジー 尾張-美濃‐近江‐山城-丹後:辰砂文化圏と 大和-葛城(生駒)-和泉-紀伊(熊野)-伊勢:辰砂文化圏との、 平安期における統合 その前段階として…

言語:信用とあそび

これの続き。 matsunoya.hatenablog.jp 言語は「信じられていること」の体系である。それはちょうど貨幣や金券のように、その共同体の空間的「境界」と時間的「限度」を維持しながら表象され、やり取りされている。貨幣だと「信じられていること」は、貨幣だ…

韮と丹生(草稿)

吉野裕子『陰陽五行と日本の天皇』の中に、中臣寿詞の解釈が出てくる。 そこで問題とされているのが、天孫の統治に必要な「天津水」を得るために、秘義とされている「韮と竹叢」の意味である。玉櫛を占庭に挿し、祝詞を唱えると韮と竹が生えてきて、そこを井…

辰砂の社会文化史・試論――平城京と平安京を例として

この記事は前の万葉歌謡史の補完のようなものである。 matsunoya.hatenablog.jp matsunoya.hatenablog.jp どの国のどの文化もほとんどは「伝統」「慣習」「古典教養」として農耕文化を基礎としている。ヘシオードスやウェルギリウスの農耕詩、中国の詩経、そ…

The Beatles(White Album)偏向的完全ガイド

ザ・ビートルズのザ・ビートルズ――通称ホワイト・アルバムは2枚組(アナログ盤では4枚組)のアルバムである。曲数がやたら多いせいで、1枚にまとめきれなかったのか、オレならこの曲を抜く、という議論がたびたび起こる。「ビートルズに捨て曲無し」の立場を…

名誉フェロー号 授与について

ご愛読の無識者(むーしきしゃ)の皆様 ツイッターでも告知しましたとおり、この度マツノヤ財団 知域総合人文学研究所は名誉フェロー号を愛読者全員に授与しております。 無料、無制限、無駄の三無がそろっており、特典としてこのブログ及びnote、pixivの無…

情報操作概論――どうすれば有名になれるか、または「無識者(むーしきしゃ)」心得

文系研究者は基本的に無名である。無名だと出版物を出そうにも出せない。研究者としての成功や科研費やなんだのやりくりのために、大学や学会のアカデミズムに歩調を合わせることとなる。そうすると内輪での評判はよくても、一般の知名度が皆無となる。これ…

6・1知域総合人文学研究所設立宣言

ブログご愛読者の皆様へ いつもご声援とご愛顧を賜りまして誠に感謝いたします。 マツノヤ人文学研究所は、この度11月11日の設立より半年と20日くらいを迎え、より研究内容の深化と発展を期すべく、2020年6月1日付けで名称をマツノヤ財団 知域総合人文学研究…

『妹の力』私見

私のスタンスは、国語とか民族語とかいう概念は近現代の虚構である、という立場である。従来古語とされるようなやまとことば、さらに縄文語や弥生語とされるような再建も、まったく国民国家の便のためにあるようなもので、古典教養がコミュニケーションとし…

研究方針:神話学と錬金術、あるいは家電の説明書はなぜ長く読みづらいか

現在わたしが取り組んでいる研究を端的に言えば、「西洋錬金術と道教煉丹術、および日本神話の比較と、その言語的表象の研究」である。 ここ半年の実験的な原稿から、やっとこさ何か成果ができそうになった。基本的には以下の記事を膨らませたものである。ど…

理想の文化‐文法事典

ことばが具象的な表象から抽象的な表現に移行する過程を、一冊の本にまとめてみたい。 神話上の神格や怪物が、卑俗な昔話、迷信を経由して、日常的な科学知識や現象に移行する過程は、文法の大衆化、文語から口語への選好の変化と軌を一にする。長いスパンの…

マレビト補論:「説き語り」の系譜学

言語を研究するには、伝えるための文法構造と伝えてきた文化体系とを総合的に見ていかなければ、全体像をつかめない。 およそ世に行われている研究は、どちらかを間に合わせで補い成り立っている。科学という文化でも、政治経済という文化でも、それを伝えて…

歌謡発生の後景――男子の本買いと、そこからの着想

今回の男子の本買い 古橋信孝『万葉歌の成立』、講談社学術文庫、1993年(原著1985年) アンドレ・ヨレス『メールヒェンの起源』、講談社学術文庫、1999年 やはり講談社学術文庫やちくま文庫は、古書に限る。 『万葉歌の成立』は、万葉集の歌を沖縄の神謡や古…

言語:文化と文法

このブログでは何度か言語について取り上げてきた。「ポスト・オリエント学」「情報文化圏交渉比較環境人文学」といういささか皮肉めいた題名で研究してきたことは、歴史や文学のみならず、人間の行動の規範となる科学全般が、いかに社会集団の地域的、通時…

即効性、瞬間風速、最大震度……

持続的、持続性、持続可能性ということが煩く言われるようになって久しいが、実現されているところを見たためしがない。それどころか不思議と、どの界隈においても持続すればするほどボロが出る。もっとも、政治家がよく不快なくらい繰り返すようにそれを「…

一億総博知時代

タイトルははっきり言って皮肉である。SNSとかあっても、使う人間が8割が凡庸、2割が怠け者なものだから、じつはスマートにもソーシャルにもなっていないのである。 コロナ禍以来、「若者の消費」を抑えろ、抑えろという論説が目に付くようになった。送別会…

#『市民ケーン』が最高の映画とかいう風潮に抗議します

もし大学の講師だったらこんな授業をすると思う。 www.businessinsider.jp 2020年になってもなお『市民ケーン』が史上最高の映画だそうだ。 こういう「映画通」の選ぶ映画というのは、ご多分に漏れず「懐古」や「思い出補正」が入っているし、最新の映画を推…

人文学的「情報機関」について

人文学はただ専門的に研究されるだけではなく、それを総合的に集約し、分析する場を必要としている。 再三述べてきたことだが、文系学部の知識は役に立たないといわれる。歴史や哲学、文学は、娯楽や教訓くらいにしか認識されていない。大学院に進学し、専門…

フォークロアの研究――いわゆる「都市伝説」「集団幻覚」から

「科学文明社会」を生きる人間においては、迷信におちいることは恥ずべきこととされている。その一方で、全体主義や都市伝説、疑似科学など、およそ現代人とは似ても似つかない迷信的な信仰をもつ人びとを、近現代の狂騒は生み出してきた。 現今の「コロナ禍…

自粛の黙示録(Apocalypse Nowadays)

出口の見えない自粛がつづく。テレビを見ていてもSNSを眺めていても、誰々はこうして我慢している、だからお前らも自粛しろだのとやせ我慢の見せ合いになってしまっている。あるいはお国のためにと見栄を張り、マスクやガウンづくりに精を出す。 すっかり戦…

ネオ河童駒引考:文明から文化圏へ

ステマとかじゃない不要不急な読書レビュー。 さいきん若尾五雄の「物質民俗学」にハマってしまった。日本各地のさまざまな伝承を、金属加工や治水技術と結びつけて研究するスタイルで、真弓常忠の「日本古代の鉄と神々」や、佐藤任がインド密教と錬金術を結…

言語:連想と合理的説明

言語は異なる境遇にある、異なる職能をもつ人びとを結び付ける紐帯である。社会とか歴史は言語の創作物として、人びとの共通観念として刻印される。これらの「物語」なるものは、記号と指示(行為と対象双方)を連関させるものとして、「連想」を不可欠とす…

空想から唯劇論へ:迷妄書き

世界的な交易路と説話のネットワークの研究 共同体が社会生活を営むにあたって、ものごとの「本質」を共有することが重要である。共同体そのものが、「本質」を渇望している。 いかなる空間(風土、社会)、そしていかなる時間(こよみ、歴史)を生きるか。…

生成と変容

「語源」「神話の類型」「心性」の研究は息が詰まるし、行き詰まる。なぜかというと、これらの起源をたどるという行為が、病的な収集癖、衒学、知識人の選民意識(アカデミズム)、オカルトといった近代活字文化の爛れた腐臭にまみれているからであり、その…

魂、精神、真理という隠喩:物語ることについて

魂は実在しない、精神は存在しない、真理は人それぞれだ……という達観した論はまことにありふれている。身の回りのものが、目に見えたり、手近に扱えるような事物でないと安心できない「心性」がある意味浸透してしまっているのかもしれない。 科学の発達が自…

反寓話攷:近代精神の解体(草稿)

現代社会において、精神と物質、経済と宗教の溝は根深いように見える。しかし実はこれらは表裏一体なものであって、本研究所でもそれに絡めて「有用性」と「消費」に一度論じたことがある。 matsunoya.hatenablog.jp 精神も物質も一種の「かたる作用」の所産…

物語、隠喩、精神

「賢さ」にはまったく異なる二つの概念が内在する。事物に関する知識の豊富さを単に量る「賢さ」と、その知識がどれだけの事物と関連するかという総体の「賢さ」である。いくら科学の知識が発展したとしても、多方面の学問を別々に知らなければならないなら…

「染中」時代の自覚

新型コロナウイルス肺炎は、新時代の「戦争」を我われにもたらしつつあるように思う。 ここまで至る現代日本の前史として、第二次世界大戦「戦後」の時代は、バブル崩壊から阪神淡路大震災、東日本大震災を経由した「失われた20年」で一区切りを迎えた、と考…

生の終着としての道具と道具への執着としての生(フェティシズム)

「史実」とはいったい何を指すのだろうか。考古学的な発掘がすなわち歴史的な実在を証明するのだろうか。科学的な年代測定で有史以前の世界を描くことが出来るのだろうか。多くの論考は「史実」かどうかに拘るが、その拘りの淵源を追究する研究者はあまりに…