マツノヤひと・もよう学研究所

独断と臆見による人文学研究と時評

かせつ

「ひと-もよう学」草稿

「ひと-もよう学」草稿●人間は動物的な「もよう」を殆ど帯びずに生まれ出る。それが自然においてどのような生存へと結びつくか。道具を使用し、表象することにより植物を育て、動物をてなずける、あるいは他の人間と強調したり、敵対することにつながってき…

言語文化と信用:劇的な学問

人文学は、言語とその信用の歴史に向き合わなければならない。 「考える」という事象は、ともかくも「信用」を中心にした紐帯――言語が通用するところの共同体をふくめた連関――を基盤としている。学問はその連関の精髄であるが、むしろ精髄であるがゆえに、多…

歴史地理、物質民俗、音・光・香り……史学の新視点

これまでわたしは、「農耕社会の成立史」のように編集されてきた伝統的な史学から、鍛冶や鉱山師などの職人の歴史を抽出し、水銀朱や鉱石、岩石の加工と特有の信仰とのむすびつきを考えてきた。 「農耕社会の成立史」であるところの、理性や精神の発達史観か…

「蝦夷」、境域の民たち:西国との交易・文化的関係をかんがえる

蝦夷の歴史は「境域」の歴史と捉えるべきと思う。 明治以降の古代東国史研究は、蝦夷対和人という民族対立、支配や隷属という階級対立の歴史として考えられてきた。それは江戸時代から続くアイヌとの交易だったり、北海道の入植という内政問題とも密接にかか…

あらためて

今の今までだれも交差させなかった分野を混じり合わせることで、正しいとは言い切れないが、今までにない可能性を切り開くような人文学を欲している。 このブログで追究してきた、「文化の類型が広がる背景にはある種のグローバリズムが介在している」という…

眼のシンボル、邪視と癒しと冶金文化

「産業革命、啓蒙革命によって失われたもの」というと、精神的な荒廃、そして公害や環境破壊というペシミスティックな側面が強調されがちである。これらを克服するために、例えば柳田国男は民俗的な伝承を守り伝えようと努力したし、南方熊楠は鎮守の森の保…

十二支と十二星座

日本神話は「星」と疎遠であるといわれている。 江戸時代の国学あたりからか、農民は早寝早起きだから星を見る余裕がない、という至極てきとうな決めつけがなされてきた。そのスタンスは概ね現代に受け継がれている。農民は迷信的で純朴無知であるという、近…

西洋の水銀朱伝承

インドや中国に比較して、ヨーロッパの古代・中世における金細工や鍛冶の歴史の追跡は困難である。一応水銀によるアマルガム技術は遅くても紀元2世紀のローマに存在していたといわれてはいる。 思うにそれは金属加工の技術が「悪魔」と結びついていたこと、…

辰砂:文化と知識のネットワーク

空海と水銀、鍍金技術の関係 丹生明神……水銀 虚空蔵加持……黒雲母、ウナギのタブーと「ヲ」を持つ蛇のアナロジー 尾張-美濃‐近江‐山城-丹後:辰砂文化圏と 大和-葛城(生駒)-和泉-紀伊(熊野)-伊勢:辰砂文化圏との、 平安期における統合 その前段階として…

辰砂の社会文化史・試論――平城京と平安京を例として

この記事は前の万葉歌謡史の補完のようなものである。 matsunoya.hatenablog.jp matsunoya.hatenablog.jp どの国のどの文化もほとんどは「伝統」「慣習」「古典教養」として農耕文化を基礎としている。ヘシオードスやウェルギリウスの農耕詩、中国の詩経、そ…

The Beatles(White Album)偏向的完全ガイド

ザ・ビートルズのザ・ビートルズ――通称ホワイト・アルバムは2枚組(アナログ盤では4枚組)のアルバムである。曲数がやたら多いせいで、1枚にまとめきれなかったのか、オレならこの曲を抜く、という議論がたびたび起こる。「ビートルズに捨て曲無し」の立場を…

#『市民ケーン』が最高の映画とかいう風潮に抗議します

もし大学の講師だったらこんな授業をすると思う。 www.businessinsider.jp 2020年になってもなお『市民ケーン』が史上最高の映画だそうだ。 こういう「映画通」の選ぶ映画というのは、ご多分に漏れず「懐古」や「思い出補正」が入っているし、最新の映画を推…

フォークロアの研究――いわゆる「都市伝説」「集団幻覚」から

「科学文明社会」を生きる人間においては、迷信におちいることは恥ずべきこととされている。その一方で、全体主義や都市伝説、疑似科学など、およそ現代人とは似ても似つかない迷信的な信仰をもつ人びとを、近現代の狂騒は生み出してきた。 現今の「コロナ禍…

言語:連想と合理的説明

言語は異なる境遇にある、異なる職能をもつ人びとを結び付ける紐帯である。社会とか歴史は言語の創作物として、人びとの共通観念として刻印される。これらの「物語」なるものは、記号と指示(行為と対象双方)を連関させるものとして、「連想」を不可欠とす…

伝説リバイバル考:オオクニヌシ、祝融、海洋交易

前日に引き続き、斜め読みの成果を。 大国主と祝融、蚩尤の関係性については、梅原猛がもう創作で行ってしまっているらしい(何を考えても二番煎じになるのは悩ましい)。それはともかく、八十神のような兄弟神を持っていた祝融や蚩尤の記述、そしてかれらの…

伝説リバイバル考:水神としての詩人と蛇神

ことばは境界をつくりだす。ことばによってかたどられた事象は、それが伝達、伝承されるかぎり永遠の記憶となりうる。ゆえにことばを用いる祭祀儀礼は(もともとは同調(Harmony)を必要とする労働が原型なのかもしれないが)共同体の中枢としてさまざまに活…

伝説リバイバル考:古代中世詩劇史論稿

とりあえず、ブログ開設以降の思考をまとめてみる。 matsunoya.hatenablog.jp ポスト・オリエントの二つの交易路 matsunoya.hatenablog.jp matsunoya.hatenablog.jp オリエント・ペルシア・インド北部・チベット・中国北部・朝鮮(シルクロード) ケルト・ゲ…

伝説リバイバル考:地名とオノマトペ

これまで「民族」「渡来」集団居住の証拠と捉えられてきた地名。しかし事情はむしろ逆で、気候条件や地形を「地名」として名乗る(その始まりはオノマトペ、擬声語や擬態語があったと思う)集団があり、伝承としてさまざまに分化を遂げた、と考えるのが自然…

伝説リバイバル考:十二支アイヌ語説

畑中友次『古地名の謎(近畿アイヌ地名の研究)』(大阪市立大学新聞会)を読んでいる。 昭和32年の本で、コロポックル先住民説や日ユ同祖論などが平然と出てくる。ともあれ、既存の近畿地名と北海道地名を対照させながら、そこに共通の地形的命名法を見いだす手…

隠喩と語源

語源は基本的に眉唾ものである。とくに即物的、明示的にかたられる「語源」は、たいていがこじつけである。地名などがその典型であろう。それを収集、検証し学問体系にまで昇華するのはまず稀有な大事業だ。言語というのは社会生活の根幹であるため、その正…

Personificationの神話学――唯劇論の歴史

神格そのものよりも、その神格に帰せられてきた物語のPersonification(擬人、人称化)によって神話を分析するべきではないかという考え。 農耕民族史観、渡来人史観、金属史観、終末論、王権……神話にはさまざまな解釈がある。「特定の社会的階層のための物…

男子の本買い 

どう学究につながるかを踏まえたうえで、徒然なるままに買った古書を振り返っていこうと思う。 哲学篇 千葉命吉『現象学大意と其の解明』(南光社、昭和3年) おそらくフッサール現象学に触れた最初期の日本人の著作。著者は大正教育八大主張なる講演会を行…

伝説リバイバル考:太子/大師信仰と劇、そして「ミトラス」

聖徳太子と秦氏の関係、そして秦の始皇帝やユダヤ教、ネストリウス派キリスト教との妖しげなかかわりについては、何冊もの本が著されてきたのでここではあえて論じない。いくら鎮護国家や律令国家、守護地頭といった体制が整えられたとはいえ、古代や中世に…

伝説リバイバル考:オオクニヌシと抽象化される暴力

matsunoya.hatenablog.jp これの続き。 matsunoya.hatenablog.jp そしてこれとも多少関連してくる。 邪馬台国の位置がどうとかいう議論もそうだが、「出雲神話」という観念にとらわれては、神話――芸能と信仰の渾然一体としたもの――を一読者の視点からどうこ…

伝説リバイバル考:お菊・皿屋敷伝説

中世・近世の伝説は古代神話のリバイバルであるという仮説のもと、お菊さんで知られる皿屋敷伝説と、菊理媛≒白山明神の関係を夢想してみる。とんでもな推論かもしれないが。 中世の皿屋敷伝説の初見には、皿もお菊の名前も出てこず、鮑の盃、それも五枚のみ…