創作落語「怪談・加州旅籠(ホテル・カリフォルニア)」
毎度ばかばかしい小噺を一つ。
時は70年代、エルヴィスがまだ生きていて、ジョンレノンがショーンの子守りをやっていたころ、まだベトナム戦争の爪痕の生々しいアメリカのお話でございます。ひとりの男が、暗い暗い砂漠の夜道を、バイクで風切って飛ばしておりました。
もう夜だから、どこかのモーテルのベッドに潜り込もうってェ算段ですが、あいにくここは砂漠のど真ん中、あるのはコリタスばかり。そろそろガス欠が気になって、こちとらちっとも「テイク・イット・イージー」じゃあいられないってェ丁度そのときに、ぼんやり光る窓明かりが前に見えてきた。
「おーい大将、お宿を貸してはくれないかい」と中に入ってみると、何やら訳ありげの、色っぽい女がおるようです。暗がりの中で、その時突然教会の鐘がゴーンと鳴りますもンだから、なんだかブキミで、マリファナにつままれたような、「ここァ極楽かもしれねェが、ともすると閻魔様のご厄介になるかもしれねェ」ってェ気分です。「まあまあ旅のお方、お上がりなんし」と言われたままに、ろうそくの火を頼りに廊下を歩いていくと、騒がしい宴席の声が聞こえてきます。
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なんてバカ騒ぎを背に女主人とちょいと話をしておりますと、こいつがただ者じゃあない。ベンツを毎日乗り回し、毎晩若い男友達とお楽しみ。中庭では踊ったり何やら乱痴気騒ぎをしているとのことです。そうこうしているうちに、ウェイターがやってきたので、ワインでも一杯ひっかけようと頼みましたが、「うんにゃ、ウチにはそんなご大層なスピリッツはもうねェだ、69年以来……」と首を振るばかり。これじゃ仕方がないと、69年というと、モンタレーがなんだ、ウッドストックがなんだと思い出話に花を咲かせます。
「俺ァあの頃ヒッピーだったんだけどね、やっぱりあそこでみたジミヘンやジャニスジョプリンのパフォーマンス以上のものはこの方見たことァないね。やっぱロックは死んだよ」なんて懐かしんでおりますと、とつぜん女主人と大将がフフフアハハと笑い出します。
「お前さんがその時見たっていうジミヘンやジャニスは、ちょうどこんな顔じゃあなかったかい!?」と現れた顔は、27歳で死んだはずのあのふたり!ぶったまげて、たまらず逃げ出すと、フロントでドアマンに呼び止められました。
「お客さん、落ち着いてください。チェックアウトは自由ですが、ここを離れることはできませんよ」と止められます。「それと……お前さんがあの時でモンタレーで見たドアーズは、ちょうどこんな顔じゃあなかったかい!?」と見上げた顔が、なんと27歳で死んだはずのあのジムモリソン!
フロントのドアマンじゃなくて、ドアーズのフロントマン!
「ああなるほど、これが本当のロックダウンか」
おあとがよろしいようで。
ロックダウンで生み出されたマッカートニーⅢ、今月12月18日発売でございますので、お帰りのさいはぜひともお買い求めください。