竹取物語と「易筮」
竹取物語は日本最古級の作り物語として知られている。その起源については中国起源など諸説が唱えられているが、本稿では竹取が竹工芸と「易筮(筮竹を取る)」とのダブル・ミーニングではないかという仮説を立て論じる。
夬卦と姤卦……山本唯一説
先行研究は近世文学者・山本唯一が『易占と日本文学』(昭和51年、清水弘文堂)で論じている(この手の議論は何と言っても吉野裕子だが、易占と竹取物語を論じた痕跡は見当たらない)。山本説は「五人の貴公子の求婚」の段を五陽一陰の卦である姤卦、および夬卦の爻辞にあてはめている。長女である巽卦のうえに「金を示す」とされる乾を重ねた姤卦、およびその反転である夬卦とする。しかし本稿ではより詳しく易卦を同定していく。
◆竹と望月……易経による隠喩
かぐや姫の誕生……節卦を表す。月(坎)+小女(兌)
苦節、節度……竹の節そして兌は西方、五行の金にあたる。月から与えられた金による致富
三ヶ月ほどで成長(中女離に)水火既済
事業の完成、衰退の始まり(盈満の害)、離(火)なので「かぐや」姫
◆貴公子求婚譚と「五陽一陰」
姤卦……君子の象である乾卦から、「五人の貴公子の求婚」の象徴たる五陽一陰へ(同時に、乾vs.震として「六人目」の求婚者である帝との対峙を示唆する)
同人卦 石作皇子(仏の御石の鉢)
上九……人と同じうするに郊に于(お)いてす(郊外で石の鉢を拾う)⇒恥を捨て、なおも言い寄る
履卦 車持皇子(蓬萊の玉の枝)
九二……幽人なれば貞にして吉(行方をくらまし偽物を作る)⇒工人たちへの債務不履行
小畜卦 阿倍御主人(火鼠の皮衣)
火鼠自体が小獣畜とも取れるが……九五、富その隣と以(とも)にす(唐人から皮衣を購入)⇒皮衣焼失
月望に近し(上九)
大有卦 大伴御行(龍の首の玉)
上九……天よりこれを祐く⇒船の難破で天祐を得られず、重病に罹る
夬卦 石上麻呂(燕の子安貝)
王庭に揚ぐ(大炊寮の屋根に登る)小人を決る、命運は長くない
◆月と「反転」(月世界の天人に卦を反転させられる)
水雷屯……かぐや姫が長女となり、月(坎)を頂く象。翁はかぐや姫を地上に留めようとする(反転させた蒙卦もニュアンスに入る、かぐや姫の蒙昧さ、恍惚による護衛失敗)
天水訟……月の王(君子)の象。上九に「鞶帯(羽衣か)を錫(たま)ふ」そして反転させた水天需……飲み食いの象。不死の仙薬
雷水解……「とどまる」から「物思いが解ける」……かぐや姫の罪咎を解く(君子以て過ちあるを赦し罪あるを宥む)
(羽衣を)負い且つ乗る。公用て隼を射るなど、弓に関する卦文も多いが、弓矢が効かない
反転させた「蹇卦」のせいか……王臣蹇々、護衛失敗
◆富士の山と旅卦
火山旅……旅団を率い、仙薬を焼かせる
「八月十五日」望月を嫌う易経と、完璧を嫌う難題聟(盈満の害、謙譲の徳)
おそらく中国由来、竹取り職能民と占い師に密接な関係⇒萬葉の文人に受容。壬申の乱の功臣(大友皇子への逆臣)への筆誅へ(桓武朝以降?)
妻問いの易占要素は、伊勢・源氏にも受け継がれたか